新型コロナウイルス感染拡大対策により、実習などで介護・福祉の現場に足を運ぶことができず、対面で話を聞いたりすることが難しい高校生や関係者の皆さんに今の現場を感じていただくため、「介護・福祉分野と教育現場をつなぐ」をテーマに、介護現場で活躍する専門職としての声をお届けします。
今回は、ホームヘルパーとして実際に自らも現場で働きながら、サービス提供責任者として所属する12名のホームヘルパーをまとめるミモザ在宅療養支援ステーション横濱花水木苑の葛西真帆さんにお話を伺いました。
在宅療養支援ステーション所長・サービス提供責任者
大切にしていることは、“気づき”と“気遣い”。
自宅での様子も気分も同じ日はないから、その日、その時に応じて臨機応変に対応。そのための引き出しを日々、増やしています。
葛西 真帆さん
- 事業所
- ミモザ在宅療養支援ステーション横濱花水木苑
※2021年6月1日より事業所の名称が「ミモザヘルパーステーション横浜霧が丘」に変わりました - 職務
- 在宅介護
- 経歴
- 病院、施設職員の経験を経て在宅介護の分野へ
現在の所属では1年半
サービス提供責任者
介護福祉士
―今の仕事・職場についたきっかけをお聞かせください
今までは病院や特別養護老人ホームで仕事をしてきました。今度、働くときには、ご自宅で過ごすことを選択されている方が、できるだけ長く自宅での生活をしていくことができるように、そのお手伝いができる仕事をと考えていました。訪問介護は、基本的には1対1で向き合います。利用者の大切にしていることを中心に、自分のスタイルを活かせる仕事だと思います。
―今の仕事。職場で大事にしていること― 一人ひとりの生活の場での支援
訪問介護の支援の場所は、一人ひとり違うご自身のご自宅です。施設であれば、居室の間取りはある程度決まっていますし、例えば掃除を行うにしても手順書が整理されていることも少なくありません。だからこそ、その人、その家に合った生活しやすさ、過ごしやすさへの「気づき」が大事だと思っています。
ベッドの横にあるゴミ箱がそこにあることで、その人のトイレへの導線でつまずく原因になることもある。そもそもそこにあるよりは、この場所にあった方が良いのではないか。ピカピカに掃除をすることが目的なら、専門業者の方のほうがきれいになるはずです。もちろん掃除は行いますが、その人にとってのこだわりを尊重することや、気づいたことでその人の生活がより良くなるのであれば、思い切って提案してみることが違いかと思っています。
―どんな介護を心がけ、自分の仕事で感じる専門性とは
限られた時間でも生活全体を見るように
いつも一緒に掃除をしている人が、今日は終わった後に息切れしている。もしかしたら、体調が思わしくないのではないか。そういったちょっとした変化に気づき、ケアマネジャーにも報告します。
今は話しをすることができなくなってしまい身体も動かない利用者の方もいます。訪問の際、私の方をじーっと見ているような気がして、私もその方をじーっと見つめ返します。しばらく、そのような時間を過ごし話しかけます。私にはうなずいているように見える瞬間があります。
ケアプランの中で訪問介護が組み込まれるのは一週間の中で週2回、それぞれ1時間のみということもあります。限られた時間ではあるけれど、その中でできる最大限のことを考え、できるだけその方の生活の全体を見ることを心がけています。
日常生活の中でのメリハリや他人がかかわることの意味
ヘルパーさんが来たらこんな話をしようと思って待っててくれる人がいる、利用者にとっては定期的に訪れる人がいることが生活の中のひとつのアクセントになっています。支援に行くというよりは、こちらが励まされることもあります。訪問介護が日常生活のメリハリになることもあり、この仕事ならではではないかと感じています。ずっとご夫婦二人だけで生活してきて、少し引きこもりがちなご家庭がありました。訪問介護のサービスを提供できることになってヘルパーが訪問するようになりました。よく話しをするヘルパーでした。ヘルパーさんがとても良くしてくれると時に涙を流されるようなこともありました。ある時、ずっと入っていなかったお風呂にご主人が入ったと聞きました。「ヘルパーさんが来るから」と、何かのきっかけになっているとしたら、この仕事の意味の深さを感じます。
―コロナ禍で見えた支援のあり方の変化と専門職としての視点
訪問介護の利用者のみなさんはニュースにもとても敏感です。新型コロナウイルスの報道についても良くご存じで、「ステイホーム」の呼びかけにも忠実に対応されている方が多いです。それにより、外出自粛も徹底されていて買い物に出かける機会も趣味の講座への参加も控えている方が多いです。外に出ませんので、当然に誰かと会話することも減るため、訪問したヘルパーとの会話が今週はじめてという方もいます。咳を切ったようにお話しをする場面もありますので、ヘルパーとしての支援内容は着実に行いながらも、いつにも増して耳を傾ける意識をもって臨んでいます。
当苑では買い物の支援も行っていますが、お取り寄せや宅配サービスを利用する人も増え、一度の買い物の量は減りました。その分、買い物以外の時間ができ、サービス提供時間の中で他のことができるようになりました。
一方で感染予防の観点からサービス提供中はマスクを常時着けた状態で行いますので、熱中症対策には気をつけています。病院や施設では冷房が効いていますが、ご自宅ではクーラーを使わない家庭もあります。また、換気ひとつをとっても常時窓を開けている家もあれば、あまり大きく開けることを好まない家もあります。ご自宅ですから、そのご家庭の過ごし方に合わせて、感染予防対策と体調管理の両立がなかなか容易ではありません。
そういった中でも変わらないことは、関わっている人たちが継続して生活できるように、今のこの瞬間の支援を大切に、今を過ごしていくということです。
―感染症対策の難しさ、現実的な場面での工夫
今までのルーティンに加え、感染予防のためのルーティンが増えました。サービスを提供する者としては当然です。徹底した手指消毒や体温確認、またそれを記録に留める手続き。当苑のヘルパーはホスピタリティの気持ちが高い人が多いので、支援の大事な時間が減ってしまうという感覚は、正直あるようです。
訪問介護の支援は、特に身体介護は本人との距離を取ってできることではありません。そこには利用者さんとの信頼関係がないと成り立ちません。今まで築いてきた関係性を大事に、自宅でこう暮らしたいという本人の思いに、真っすぐ向き合っていくことが何より大切なのではないかと考えています。
―今後の「新しい日常」への対応と、次の世代へのメッセージ
今回の新型コロナウイルスによる現場への影響は様々な場面で出ています。併設する多世代交流サロン「あかしあ」は今も稼働することができていません。地域に存在する事業所でもあるので、地域のために貢献できることをできるだけ実施していきたいと考えています。訪問介護も地域の中に訪問する活動なので、地域との接点は大切です。訪問の際、駐車スペースを気持ちよく貸してくださる方もいます。
新しい日常の工夫としてオンラインによる活動が良く目につくようになりました。診療や看護などではオンラインによりできることもあるかと思いますが、訪問介護は直接行うことが基本となります。今は固定していない利用者さんとヘルパーの組み合わせを固定して接触機会を限定するなどの工夫は必要だと考えていますが、在宅サービスの提供は変わらず続けていきます。
訪問介護の仕事を担うこれからの人材確保も大切な要素です。ヘルパーは初任者研修など基本的なスキルを身に付けた方が行うサービスです。それでも、まずは気持ちの部分が大切になってくると考えます。
小さい頃からお手伝いをするのが好きだった、相手の立場で思いをめぐらせることができる、そんな若い人たちに訪問介護のしごとの実際を知っていただいて、次の世代を担ってもらいたいと思います。
12人いるヘルパーのひとり奈良秀樹さんは、自動車関連の仕事で定年を迎え、セカンドキャリアとしてこの事業所で働いて4か月。入職の際の面接者が葛西さんだった。その時から真摯に向き合ってくれて、奈良さんのやりたいことを覚えてくれていた。ミモザでの仕事のスタートはサービス付高齢者住宅のコンシュルジュで、そこで4か月働いて、一緒に訪問介護をやらないかと今の事業所に誘ってくれた。
今、ここで働くスタッフの中には70代の方が3人もいる。葛西さんは、「高齢者就労」にも力を入れているという。ヘルパーさんの働く目的も、働きたいエリアや内容もみんな違う中で、奈良さんは葛西さんのことを「みんなの相談役でもあり、ひとりのヘルパーとしても尊敬できる人」と語る。
ミモザ在宅療養支援ステーション横濱花水木苑のご紹介
※2021年6月1日より事業所の名称が「ミモザヘルパーステーション横浜霧が丘」に変わりました
経営主体:ミモザ株式会社
〒226-0016神奈川県横浜市緑区霧が丘5-25-1
電話:045-924-3816
ファックス:045-924-3814
https://www.mimoza-care.jp/base/zaitaku-hanamizuki.html
開所日:平成27年4月1日
ミモザ在宅療養支援ステーション横濱花水木苑は、“できる”を大切にご自宅での暮らしを継続していただけるよう、ご自宅での生活環境や過ごし方を丁寧にヒアリングし、ご自分でできることを大切にした“自立支援”のサービスを提供いたします。