特集

神奈川県介護人材確保対策推進会議では、介護福祉ポータルサイトによる情報発信を行っています。
この特集ページでは、「テーマ」に沿った、かながわの介護福祉の情報をお届けします。

人生の挑戦に寄り添い、尊い時間を共有する~訪問介護の役割

訪問介護センターまつなみ  サービス提供責任者 中川早紀

介護のプロを育てる教員から、再び介護の現場に戻って・・・

私は、社会福祉・介護福祉を大学で学び、卒業後は、特別養護老人ホームで介護職を5年、生活相談員を3年経験しました。実務を通じて、職場の人材育成に興味が沸き、働きながら神奈川県立保健福祉大学の実践教育センターで介護教員講習会を受講しました。その後、専門学校の専任講師を3年間していたのですが、介護の現場を離れたことで、気づいたことがありました。それは、私自身が利用者とのかかわりから、ものすごく大きなエネルギーを頂いていたという事です。『もう一度介護の仕事をしたい。』と思い、訪問介護事業所で勤務を始めて、まもなく2年になります。サービス提供責任者として、訪問介護員(以下、ヘルパー)の調整をしつつ、私自身がヘルパーとして利用者宅へ訪問することもあります。

訪問介護の専門性は、相手の生活に溶け込むこと

訪問介護の専門性とは何かを考えたときに、介護福祉の基本的な知識や技術は必要ですが、それに加えて、利用者の生きてきた背景や、その人らしさを理解して、「生活に溶け込むこと」が大切だと思っています。

利用者の生活は十人十色です。ヘルパーの持つ色が濃いと、その人の生活の色(その人らしさ)がくすんでしまうことがあります。訪問時は、相手を観察しながら、コミュニケーションを重ね、いかに生活に溶け込むかを考えています。利用者の色に合わせて、自分自身の色を微調整していくようなイメージです。

利用者の生活から、気づきや学びを得る

さまざまなお宅に訪問し、利用者の価値観に触れることで、私の中で常識だと思っていた事や、“こうあるべき”という凝り固まった考えに気づくことがあります。仕事を通じて、多様な考え方があることを知り、私自身も生きやすくなったなと感じます。

訪問介護の仕事から、人生の先輩方の生活の知恵を学んでいます。それを、私の日々の暮らしに活かすことができたり、支援の引き出しが増えていく感じが楽しいです。さまざまな人や場面から学びを得られることは、とてもありがたいことで、仕事を通じて自分が少しずつ成長できているなと感じています。

訪問介護の仕事の醍醐味~人生の挑戦に寄り添う

ここで、私が担当している利用者のエピソードを2つ紹介したいと思います。

利用者のAさんは、90歳代の女性です。Aさんはさまざまな病気で入退院を経験し、現在は自宅で一人暮らしをされています。持病の関係で、施設であれば、食事制限を厳密にしなくてはならない状況です。自宅の生活では、本人と専門職が相談を重ね、リスクをある程度受け入れた上で、Aさんが食べたいものを中心に、食材などを選び、ヘルパーが買い物や調理の支援をしています。

Aさんは、在宅生活を続けていることについて、「自分の人生に挑戦してるのよ」「施設でなくても生きていけるっていう、一つの事例ね」とおっしゃっていました。この言葉から、自分で身の回りのことを工夫しながら、自宅での生活を続けていることに、Aさんが誇りをもっているのだと感じました。利用者の人生の挑戦に立ち会い、寄り添えることが、訪問介護の仕事の醍醐味だと思います。

利用者とヘルパーが紡ぐ、尊い時間

利用者のBさんは、アルツハイマー型認知症と診断されている80歳代の女性です。買い物同行の支援をしているのですが、サービスを開始した当初は、足が痛い、外出はしない、とお話されることが多くありました。訪問を重ねるうちに、ヘルパーとの外出が習慣となり、ヘルパーと過ごす時間を「すごく尊い」とお話くださるようになりました。また、Bさんはユーモアのある方で、外を歩いている時に「夏の風はご馳走ね!」という感性豊かな名言も生まれました。今では、冗談を言って笑い合うなど、ヘルパーと親密な関係を築かれています。

一方で、Bさんは認知症のため、ヘルパーの名前を覚えることが難しく、私がしばらく訪問していないと、「はじめまして」となる時があります。そのような場面でも、専門職としてのアプローチを実践することで、「あなた、初めての割に気が合うわね」と笑顔で話してくださいます。新しいことを記憶するのは難しくても、限られた訪問時間の中で、楽しくコミュニケーションを重ねる、そんな時間が利用者のエネルギーになっていたら嬉しいです。

「日常」とは、何気ない時間や風景で、普段は意識していないものかもしれません。そんな日常を、自分らしく、誰かと重ねていくことが、人生なのかなと思っています。ヘルパーによる一つひとつの支援は、何気ないことかもしれませんが、継続して関わり続けることの意味を、Bさんの「尊い」という言葉から学びました。

そんなBさんも、「辛くなって、たまに消えてしまいたい気持ちになる」とお話をされることがあります。そんなときは、無理に励ますのではなく、「今、そのように感じていらっしゃるんですね」と、気持ちを受け止めるようにしています。

辛い時は、誰にでもあると思います。ふとした瞬間に、辛い気持ちが言葉や表情に出てしまったとき、言わなければよかったって思わないでいただけるといいな、と。弱い部分を出しても大丈夫ですよ、という姿勢を大切にしています。

年を重ねていく中で、人生の最期について考えている利用者も多いですが、思いを家族と共有することが難しい場合もあります。ヘルパーは利用者の支援が基本ですが、利用者の思いを家族に伝えるための橋渡しも、必要な役割の一つなのかなと思います。

一人の時間も、孤独じゃない

利用者宅へ訪問すると、あなたが来るから頑張れるとお話してくださる方がいらっしゃいます。「ヘルパーが来るから、自分でも頑張って掃除や料理をやってみた」、「ヘルパーが来てくれるから大丈夫だと思える」というお話を聞くと、訪問していない時間もヘルパーが力になれているんだなと感じて、嬉しくなります。利用者が、「私は一人じゃない」と感じながら暮らせることが、その人らしく生きることに繋がっているように思います。

生きづらさを抱える人をエンパワメントしたい

今後は、高齢者だけでなく、生きづらさを抱えている人に対して、「今日、生きててよかったな」とか、少しでも「楽しかったな」、「嬉しかったな」と感じていただけるような支援・かかわりができたらと考えています。訪問介護のサービスという枠にとらわれずに、私も自分の人生に挑戦しつづけたいと思います。

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