介護人材定着・育成のための取組み
「神奈川の介護福祉の現場が取り組む職員育成状況把握調査」から見る人材確保・育成への取り組み
「神奈川の介護福祉の現場が取り組む職員育成状況把握調査」から見る人材確保・育成への取り組み
VOL2
天王森の郷は横浜市泉区の緑豊かな場所にある特別養護老人ホームです。
2010年より外国籍の職員(以下、外国籍職員という)の受け入れを始め、現在では18名の職員が働いています。(2025年11月時点)
今回は、外国籍職員の受け入れ当時の課題や、安心して仕事ができる環境のために行っている支援や配慮について、エピソードも踏まえて人財開発担当の増尾和行(マスオカズユキ)さんにお話しを伺いました。
【外国籍職員の受け入れから定着までの道のり】
外国籍職員の受け入れから15年が経ちますが、これまでにどのようなや課題があり、どのような環境作りや育成をしてきたことで、現在の「定着」へと繋がっているのか教えてください。
●外国籍職員と一緒に働くということ
<日本人職員の理解とコミュニケーションの工夫>横浜市の在日外国籍市民の就労支援事業がきっかけで入職したベトナム籍の職員が思いのほか日本人職員に馴染み施設で働いてくれたので、同年に外国籍の方を新たに2名受け入れしたことがはじまりです。
今では多くの外国籍職員がいる施設という一定の認識を得ているので、新しく入職する日本人職員がそれほど戸惑うこともありませんが、受け入れ当初は外国籍職員と働くことに抵抗がある職員もいました。
言語の違いからくるコミュニケーションの難しさから、外国籍職員に仕事を頼まず、説明や指示がすぐに伝わる日本人職員に仕事を頼んでしまうという職員もおりました。
これでは日本人職員の負担が増える一方ですが、賃金は外国籍職員と変わりません。もちろん、日本人職員としてはこの状況に納得できないわけですが、これは日本人職員が外国籍職員に対して、仕事の線引きをしたことにより生じた状況であり、結局、巡り巡って自分たちの首を締めることにつながっていたのです。
そこで、説明や指示が上手く伝わらないのであれば、小学生にお手伝いを頼む時のようなわかりやすい日本語で伝える工夫をするなど、まずは人としての優しさをもって「ちゃんとコミュニケーションをとらないといけないよね」という話しをしました。最初は納得していなかった職員もその日からは、ちゃんと均等に仕事を割り振るようになりました。
なかにはコミュニケーションをとるのが上手い日本人職員もいて、「これからAさんのところに行きます」と言い、まずは「行く」ということだけを伝え、行って何をするかまでは伝えない。一緒に行ったら、「次にAさんに起きてもらうので一緒に介助しましょう」と言い、伝えるタイミングを小分けにする。一度に全部を説明せず、仕事の流れを理解しやすいように工夫して、指示をするのではなく、「こういうやり方をするとスムーズですよ」というような伝え方をしていました。
このようなちょっとした配慮や工夫の積み重ねにより、お互いに協力しあえる関係性を築いていると感じています。
●外国籍職員のキャリアパスとは
<キャリアパスのゴールは一生きちんと働ける介護職員>多くの外国籍職員は頑張って仕事を覚えよう、一緒に働く人の迷惑にならないようにしようという努力をしていますが、一人前に仕事ができるようになるまでは当然苦労があります。
日本人職員であれば、会話の中で出てくる言葉が「漢字」としてイメージでき、その意味や意図をすぐに理解できますが、外国籍職員の場合は、耳にした言葉がどういう「漢字」になって、その漢字がどのような「意味」を持つのかを理解し、その上ではじめて自分のものにできるわけです。
言葉の壁は想像以上に大変だと思いますが、同僚に「日本語の○○ってどういう意味なの?」と遠慮なく聞ける関係性と、自分を高めようという意欲と勤勉さの結果、夜勤業務もできる、記録も書ける、救急の時に救急車を呼ぶこともできるといった業務にまで携われるようになった職員もいます。
外国籍職員だからここまでできればいいという線引きをするのではなく、日本人職員ができる仕事のラインまで育てていけば、できるケアの幅が広がり、人手不足の解消にも繋がります。
日本人職員だったら「10」教えればいいところを、外国籍職員だと「30」必要になるのであれば、その「30」をテンポよく覚えられるような仕組み作りや、外国籍職員に限ったことではありませんが、入職の時点で能力に差があるであれば、その差をいかに埋めていくのかを考え、一人前の介護職員に成長できる仕組み作りをすることが定着に繋がるキャリアパスだと思いますし、そこは日本人職員・外国籍職員は関係ないと考えています。
外国籍職員が安心して働くことができる支援や環境作り
外国籍職員が心置きなく仕事に取組み、キャリアを積み上げていくには、日常生活での困りごとや心配ごとを減らすこと、また、複雑な手続きへの対応や日本の社会制度への理解など様々な課題があると思いますが、法人としてサポートしていることや印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
●社会保険料の控除への理解~「お給料から何かが引かれている!どうして?」~
就業が始まりひと月後には給与支給となります。給与明細には多くの控除が書かれ、手取り金額は少なくなります。
でも、在日外国籍職員からするとどうしてお給料からたくさんお金が引かれているのかわからないため、「搾取」されているのではないかと不信感を持つケースもありました。
日本の社会保険料は、医療費の負担軽減や老後の生活保障など、働く人の生活を支えるために必要なものであることを説明しますが、管理者等の立場で説明をすることで、ますます信じてもらえないということもありました。
しかし、同じ立場の同僚の日本人職員や在日の職員から「日本ではそういう制度があるんだよ」と説明をすると、「そうなんだね」とすんなり納得してくれました。
これまでの労働環境によっては、給与明細の説明がなく給与を受け取っていたなど、管理者等への不信感や不安があったのかもしれませんが、同じ立場の同僚同士、ざっくばらんに賃金のことや休みの取り方等について話せる関係性を築くことが大切だとつくづく感じました。
●ビザの更新申請をサポート~心置きなく仕事をしてもらうために心配ごとを減らす~
在留資格が「特定技能」の場合、支援団体がビザの更新申請などのサポートをしてくれますが、在留資格が「介護」になると支援団体によるサポートがなくなるため、個人での手続きが必要となります。しかし、外国籍職員が自分で手続きをすべて行うことは難しく、「ビザが切れてしまう。どうしよう。」と心配を抱えたまま仕事をすることになりかねません。
そこで、天王森の郷では、法人として在留期間の更新許可申請など入管に関する手続きを「申請取次制度」により支援しています。
法人が入管申請手続きを支援する一番の目的は、出入国在留管理庁への申請支援をすることでビザの期限を把握することにあります。そうすることで、外国籍職員のオーバーステイによる強制送還のリスクがなくなり、安心して仕事に集中してもらうことができます。
他にも、例えば介護福祉士の国家試験に合格した外国籍職員が数名いた場合、合格発表の3月に在留資格「介護」への変更・更新手続きを同じタイミングで行えば、次の更新手続きも同じタイミングで行うことができます。
法人としても、迅速に手続きをすることで、法人が負担している支援団体への毎月の支援委託金の支払いも査証(ビザ)が「介護」になり次第、早期になくなりますので、そういう点でも申請取次ぎのメリットはあると感じています。
こうしたサポートの仕組みは、多様な「人財」が学び働き続けることが出来る安心した職場の環境づくりの基盤の一つとなっています。
【インタビュー編集後記】
日本で就労する外国人は、令和7年10月時点で過去最多の257万人(※1)となり、日本の様々な分野での活躍が期待されています。
介護分野においては、EPA(経済連携協定)、在留資格「介護」、「特定技能」、「技能実習」によるものの他に、永住者、日本人の配偶者など様々な背景の方が介護の現場で働いています。
天王森の郷でも多くの外国籍の方が働いていますが、その背景により悩みや苦労も様々だと言います。特に単身日本に来ている場合や、外国籍同士の家族構成の場合は、病気などの緊急事態においては、言葉の壁もあり状況をうまく説明できない、何を言われているのか十分に理解ができない、このようなとき誰を頼ればよいのかなど、大きな不安があると言います。
増尾さんは、法人としてどこまで職員の生活をサポートできるかは難しい問題であるとしつつも、同じ職場の仲間として入院時のフォローや住まいの更新手続き、子どもの進学・進級など成長に係ることなどをサポートしてきました。
今では、これらのフォローとサポートを受けた職員が、新しい職員を自身の経験と知識で支えあうという、よい循環を生み出しています。
外国人雇用は「人材」不足を補うための側面が大きく、今後ますます促進されていくと思われますが、インタビュー記事の校正にあたり、「人材」を「人財」にそっと直した増尾さんに、決して不足を補うだけの要員ではなく、日本人職員も外国籍職員も一緒に働く大切な仲間であり、職員こそ法人のかけがえのない財産だという静かな意思を感じました。
(※1)厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課海外人材受入就労対策室「外国人雇用状況」の届出状況のまとめ(令和7年10月末時点)より
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_68794.html
福祉タイムズ(2024年8月号)12面
「外国籍職員とともに働く~誰もが働きやすい職場を目指して~」も併せてぜひご覧ください。
https://www.knsyk.jp/application/files/2617/2412/0458/873.pdf
